東京高等裁判所 昭和29年(ラ)383号 決定
一、仮処分命令の執行力は該命令に表示された債務者に対してのみ及び債務者以外の第三者に及ばないことは、民事訴訟法第七百五十六条第七百四十八条の規定に照し明らかである。当裁判所が取り寄せた本件仮処分執行事件記録によれば、本件仮処分命令は別紙記載建物部分に関し債務者田中政治に対し、債務者の占有を解き執行吏の保管に移し、同執行吏は現状を変更しないことを条件として債務者に使用を許すべきことを定めているものであること、昭和二十九年二月四日当時同債務者は既に本件建物部分の占拠使用をやめて他に退去していること、当時既に大塚昌輔が右建物部分を占拠使用していたこと、右同日東京地方裁判所執行吏浅野光重が右仮処分命令の執行として、大塚昌輔の占拠使用を排除し、右建物部分の出入口を閉鎖封印し使用不能状態となし同執行吏の現実占有に移したことが認められる。しかして債務者田中政治に対する仮処分命令をもつて第三者である大塚昌輔に対し排除の執行をなし得ないことは、前記のとおりであるから、大塚昌輔に対する右執行処分は違法なものであつて許されない。
二、抗告人は、大塚昌輔か田中政治の占有を承継したものであるとの原決定の認定を非難しているが、大塚か田中の占有を承継したものであつても、又は自己の占有を取得したものであつても、本件執行処分が違法なものであることには変りなく、その理由は前記一のとおりであるから、右非難は理由がない。
四、本件のような仮処分は現状の変更を防止し執行の保全をはかるにあるから、その保管を命ぜられた執行吏は国家機関として一度占有保管した後においては、その保管を妨害し侵奪した者に対して、それがたとえ第三者であるにしてもこれを排除し保管を全うしなければならないのであり、承継人に対しても承継執行文は必要としないと抗告人は主張する。しかし、執行吏は、債務名義に表示された債権者のために債務名義に表示された債務者に対して、債務名義の内容に従つて執行することをもつて職責とするものであつて、債務名義に表示されていない第三者に対しては執行をなす権限を有しないものである。このことは、現状の変更を防止する仮処分命令の執行においても同様であつて、右主張は理由がない。